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「初大相撲観戦」ー見ず知らずが一体にー

更新日:2023年4月16日

いよいよマスク着用が任意となり、他人の顔が見える日常生活が戻ってきました。春の陽気と相まって明るい気持ちの今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。本日は、初めての大相撲観戦のお話を。

 

相撲といえば、『古事記(712年)』や『日本書紀(720年)』にも登場し、1500年以上の歴史があるとされる日本の国技、日本人なら誰でも知っている伝統競技です。我が家も大相撲が始まれば、祖母がよくテレビ観戦をしていました。私自身は、テレビ画面の大相撲は、「肌色面積が多すぎて、ビジュアル面がちょっと苦手だなあ」、とあまり興味を持てずにおりました。以前、ブラジル人の留学生とサッカー観戦した時に、「やっぱり国技は盛り上がる」という話題になったところ、私が「日本の国技を観戦したことがない」と言うと、非常に驚かれたものです。「絶対観た方が良い!」と言われるも、観ることはなく、月日は流れて行きました。


人生は儚い、最近よく思います。何をしても、しなくても、「歳月人を待たず」、容赦無く時間は過ぎていきます。だから、何をしなければならない、ということでもないのですが、今年は見たことがないものを見たいなあ、「そうだ!相撲を観に行こう!」ということで、行ってきました、初めての大相撲。場所は大阪、三月場所。



会場に入ると、まず私たちを迎えてくれるのは、歌舞伎や寄席の看板などでもお馴染みの太くてどっしりとした筆文字、いわゆる江戸文字で書かれた「相撲文字」。余白が少ない文字には、隙間なくお客がびっちり入りますように、という願掛けの意味が込められているそうです。


さて、私は、前日から、初大相撲観戦記念のお土産は、相撲文字で書かれた「番付表(力士の順位表)」と決めていたので、最初に売店でこれを入手しました。この番付表、全て、行司による手書きとのことで、情報量、文字数の多さをまとめる緻密に計算されたレイアウト、表現力の高さに、感服です。



上段中心に「蒙御免(ごめんこうむる)」と書かれているのは、江戸時代、寺社奉公から許可を得て興行していることを示すもので、数百年受け継がれている伝統の証です。

気がつけば、私たちの日常には、相撲由来の言葉がたくさんあります。よく聞く「満員御礼」は、本場所の大相撲興行において入場者が一定の人数に達した時に出す言葉。物事が始まったばかりのところを意味する「序の口」は、力士番付の一番下の階級のこと。「番付」も然り。「軍配が上がる」も何気なく使いますが、軍配も相撲の審判、行司さんのうちわ型の道具のこと。

 

さて、観客席でも銘々が相撲知識を散りばめて、大きな声で話しています。「土俵上の吊り屋根のふさは、青龍・朱雀・白虎・玄武を表している」とか、「〇〇部屋の力士はみんな四股を踏むのが上手い」などなど、相撲ファンの会話を聞いているだけで面白いものです。そして、超相撲初心者の私たちの会話にも応えてくれます。土俵上にいる話題の力士がどちらか分からず、「どっちなん!?」と話していると、後ろの席からそれとなく「〇〇は赤色の廻しをつけてるな~」と教えてくれたり、私たちの推し力士が勝った時、「〇〇は初白星やな!」と言うと、隣の席から何気なく「〇〇は今場所全勝してるな~」と正してくれます。「今の勝負は良かったな!」と言えば、どこからともなく「ほんまやな~」という相槌…。もはや、周囲の観客はみんな知り合いのようで、一体感が素晴らしい(大阪ならでは?)。



地元力士が土俵に上がると観客席は大盛り上がり、土俵際で踏ん張れば踏ん張るほど応援にも力が入り、小さな力士が大きな力士を倒すと大歓声。マスク着用で会話を控える時期が続き、騒がしくも楽しかった日常を忘れつつあったこの頃に、見ず知らずの人たちの笑顔や歓声を聞いたのは、実に数年ぶりです。

 

ところで、此度の大相撲観戦、海外からの観光客がとても多いことに驚きました。外国人が相撲を観戦しているのは、説明し難いのですが、何だか不思議な光景です。小さい頃から日本的と思っていたものがこんなにグローバルなものだったのか、と。外から見た方が価値がわかる、当たり前にあるとその素晴らしさに気がつかない。そして、実際に、行ってみないと分からないものです。


土俵上の大きな体、過酷な競技を選んだ力士の伝統を絶やさない決意はきっと並大抵のものではありません。せっかく日本に生まれ育って、この面白さを素通りする人生なんて勿体無い。好き嫌いは仕方がないけれど、食わず嫌いは、良くない良くない。生きている間は、誰しも土俵上、「発揮揚々(はっきょい)=気分を高めて勝負せよ」・「残った残った(のこった)=まだ勝負はついていない」ということで…。

 

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(本記事は、2023年3月30日奈良新聞掲載「暮らしの中の書」より)


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