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《Crowd シリーズ》

まなざしは収束し、存在はただここのみ。

三部作は、《Crowd》から始まり、《After the Crowd》、そして《,and crowd lost.》へと展開した。
最初の展示《Crowd》では、空間を覆う圧倒的な書によって「群れ」の全体像を提示した。続く《After the Crowd》では、それを解体し無数の小作品へと再構成。最後の《,and crowd lost.》では、作家自身の身体スケールに合わせた立方体を内外から文字で覆い尽くし、個から「私」への視点の変化を象徴した。
この流れは、全体から個へ、個から私へと移行する視座を示し、存在の本質を根源から問い直す試みとなった。

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《Crowd》

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《After the Crowd》

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《,and crowd lost.》

Exhibition Notes

【Crowd シリーズ 作品説明】

Crowdシリーズ(2005)は、「群衆から個へ」「外部から内部へ」「意味から行為と現象へ」という転換を通じて、書の根源的な在り方を問う試みである。

《Crowd》シリーズは、書の意味を超えて「線そのもの」に立ち返るための、作家にとって根源的な探究の場であった。群衆の中に埋没する個の存在、記号としての文字が持つ意味からの解放、そして「書く」という行為に潜む本質を問う営為である。

初期作では、鯨や群れのイメージを通して圧倒的な集合の感覚を可視化し、次の段階ではその集合を断片化し、一片一片を独立した作品へと仕立てることで、全体から個への還元を試みた。さらに終着点では、作家自身の身体スケールを基準とした立方体を文字で覆い尽くし、群衆を失った後になお残る「私」という視点を浮かび上がらせた。

この一連の試みは、「群衆から個へ」「外部から内部へ」「意味から行為と現象へ」という流れを経て、書が持つ存在論的な問いを根底から掘り起こすものである。書とは何か、何を本質として追求すべきなのか。《Crowd》シリーズは、その核心に触れる契機を与えた、創作の根源を問うシリーズである。

Crowd

《Crowd》 

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2005.4

《Crowd》

会場:新風館3Fトランスジャンル(京都・日本)

ー空間を満たす大作によって「群れ」の全体像を提示。

《Crowd》は、書壇での鍛錬を経て従来の書表現に疑問を抱いた作家が、新たな方向性を模索する中で制作したインスタレーションである。形骸化した書の形式や、個の埋没という状況に対する批評的視点がその背景にある。モチーフとして鯨が選ばれたのは、作家が幼少期に体験した夢──巨大すぎて全体像を把握できない鯨が頭の中を泳ぐ感覚に恐怖した記憶──と、後年目にした映画のワンシーン(鯨が鰯の群れを飲み込む場面)に起因する。

この二つの体験が重なり、書とはかけ離れたモチーフである鯨が、作家の表現を転換させる契機として浮上した。展示空間には、実物大約10メートルの鯨模型が天井に吊るされ、その内部には過去の書壇時代の練習作品が破かれ、コラージュとして組み込まれている。これは過去との決別と、新たな出発を象徴する行為である。さらに空間には木版による鰯の群れを配置し、多数の文字を重ね書くことで「文字の群れ」を幾何学的に提示した。これらの要素は、鯨と鰯、文字の集合を対比させることで、個と群衆、存在と埋没の関係を空間的に可視化する。

【会場写真】

鯨:長さ 1000 cm × 幅 (胴体)188 cm  

素材:墨、鳥の子紙

高さ 550 cm × 幅 188 cm × 5 枚  

素材:墨、鳥の子紙

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《After the Crowd》 

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2005.9

 《After the Crowd》

会場:ギャラリーはねうさぎ (京都・日本)

ー《Crowd》を解体し、無数の小さな作品へと再構成。

《After the Crowd》は、前作《Crowd》を解体し、無数の小作品へと再構成したインスタレーションである。《Crowd》において展示された「文字の群れ」を描いた188 × 550 cmの大作4枚を切り分け、10 × 10 cmの断片として計432個に分割し、展示空間に応じて配置した。全体として提示されていた「群衆」を構成するイメージを、一つ一つ独立した作品として提示することで、集合から個への転換を図っている。さらに本作では、同じモチーフを扱いながら、書かれた文字の線ではなく、切り抜かれた文字の線を強調し、書の不在から新たな線のあり方を浮かび上がらせている。素材には、墨で染めた臈纈染の布が用いられている。
断片化された一枚一枚は、全体の記憶を宿しながらも固有の存在として立ち上がり、観者に近接的なまなざしを促す。大作のスケールと小片の親密さが対照をなし、書と空間の新たな関係を提示している。

【会場写真】

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長さ 1000 cm × 幅 45 cm × 3 枚  

素材:綿(臈纈染)

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 10 cm × 10 cm × 5 cm × 432個 

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《,and crowd lost.》 

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2005.12

《,and crowd lost.》

会場:ギャラリー蔵+京都SHIPS MEN’S店(京都・日本)

ー作家自身の身体スケールに合わせた立方体を、内外から文字で覆い尽くす構成とした。そこには、個から「私」へと至る視点の変化が象徴されている。

《,and crowd lost.》は、《Crowd》シリーズの終着点として構想されたインスタレーションである。作家自身の身体スケールに合わせた立方体を内外から文字で覆い尽くす構成とし、観者はその外側から包囲された量感を体感すると同時に、内部に潜む視点を想起することになる。
《Crowd》で提示された「群衆」としての集合的な構造は、本作において解体され、個が「私」という主体へと還元される。群れを失った後に立ち現れるのは、他者との関係性を超えてなお存在し続ける一人の身体であり、その内奥に潜む「私」という視点である。本作は、群衆から個へ、そして「私」へと至る転換を示すことで、シリーズの総括的な位置を担っている。
この転換は、作家にとって書の表現を根底から問い直す契機となり、やがて、Crowdedシリーズへとつながっていく。作家が書において本質的に追求すべきことは何か、その核心に気づくきっかけを与えた重要な節目であった。

【会場写真】

 150 cm × 150 cm × 150 cm 

外:ベニヤ板、ペンキ、墨
​内:画仙紙、墨 

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