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書道とお化粧の話ー美しさ演出する工夫ー

新しい年になりました。心機一転、今年はどんな一年になるでしょう。より良きを目指して、本年もよろしくお願いいたします。

さて、長いコロナ禍からマスク生活が当たり前になった今日この頃ですが、お正月のテレビ番組で”マスクを外すのが恥ずかしい”子どもたちが増えていることが話題になっていました。私は、寝正月をしながら、なかなか由々しき問題であると、うつらうつら考えました。かく言う私もマスクを外したくないと思う場面が多々あります。なぜなら、私の場合は、コロナ禍にお化粧をしなくなったからです。極端に出かけることが減ったこと、マスクに擦れて化粧が取れること、化粧をしてもどうせマスクで隠れること…。言い訳ではなく、合理的な理由からです。(ということにしておきましょう)


 

ところで、日本が誇る伝統文化「仮名」書道では、細い小筆を使った繊細な曲線が美しいものです。単調になりがちな「仮名」の細い線も訓練を重ねれば、極めて細い曲線の中に、墨色や運筆の抑揚をつけることが出来、太細、強弱も自在で、線質は、穏やかさも鋭さも、粘り気もそっけなさも表現できます。この工夫によって、作品の印象が大きく変化します。私は、よくお稽古中の雑談で、これをお化粧にたとえて盛り上がることがあります。女性の生徒さんは、大いに納得、化粧をされない男性陣も興味深いと頷きます。

一体何のことか、と申しますと、最近見た、有名な”美容系ユーチューバー”の動画で「なるほど」と思うことがあり、これを例にお伝えいたします。それは、メイクさんが、アイドルのメイクを仕上げる際、頬に「描きボクロ」をすると喜ばれる、といった内容で、小さな黒点を付け足すことで、顔面が引き締まって小顔効果になるそうです。何気ない工夫ですが、それは「仮名」を書く時、経験的に理解していたことだ、と私は何だか可笑しく、また嬉しくなったものです。


私がよく例えるのは、目の縁に線を描いて、目元をくっきり大きく見せるという効果のある「アイライン」で、例えば、目尻から外側に5ミリ程出して描くと、その分、目幅が広がって目が大きく見えます。また、まつ毛の上にアイラインを描くとき、それを1ミリ幅にするか、2ミリ幅にするか、という少しの違いだけで顔の印象は大きく異なります。これを「仮名」の世界に置き換えて、例えば、「の・あ・め」などの回転部分を大きくすると、字中の余白が増え、文字が明るくなります。また、行間が空いて寂しくなりそうな時、次行の線を太めに書いて調整し、紙面の中の黒の面積を増やす工夫をするだけで、作品が引き締まり、印象が変わります。いずれもより良きを目指して、その目的や狙いに応じて、相応しい表現を支持体に落とし込む作業をしている訳です。(理屈は分かっていても、おいそれと出来ないのが世の常ですが)


 

話は変わって、皆さま「鏡絵馬」をご存知ですか?ーお正月に、上記のような「書道とお化粧の共通点」について、たわいもなく母と話していたところ、母が教えてくれました。それは、京都の河合神社にある珍しい絵馬のことです。河合神社は、創建年は不詳ですが、神武天皇(紀元前711~紀元前585年)の頃とされ、世界遺産の下鴨神社の摂社(本社に縁故の深い神を祀った神社)として古くから祀られ、現在も女性守護としての信仰を集めています。ご祭神は日本神話に登場する女神で、神武天皇の母とされる玉依姫命(タマヨリヒメ)をお祀りしています。実は、この玉依姫命は、玉のように美しいことから「美麗の神」としてもよく知られています。そこで、河合神社では、顔が描かれた手鏡の形をした絵馬に、実際に化粧を施し、願い事を書いて奉納するようになったということです。参拝者は、境内にある「鏡絵馬お化粧室」で持参した化粧品や色鉛筆などで、鏡絵馬にお化粧して、身も心も美しくなるようにと願います。


そこで、早速、今年の初詣は河合神社へ参拝し、「鏡絵馬」を奉納して参りました。ちなみに河合神社は、下鴨神社境内にある糺の森の側にあります。そこは、私にとって、高校時代の通学路で、青春の思い出の場所。毎日、美しい糺の森の中をなりふり構わず自転車で駆け抜けていました。そんな身近に美麗の神様がいらっしゃったなんて、もっと早くに知りたかったと嘆くも月日は戻らない。…大丈夫、いつだって人生は、これからです。これからは、マスクで隠さずありのままを…、否、美しくなるための努力と工夫を積み重ね、明るく楽しく、愛らしいウサギのように跳ねる一年にしたいところです。



 


























(本記事は、2023年1月12日奈良新聞掲載「暮らしの中の書」より)

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