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恋心とジェネレーションギャップ ー相手を思う心は普遍ー

更新日:2023年4月15日

私が「ジェネレーションギャップ」という言葉に初めて触れたのは小学校高学年の頃だったと思います。世代による文化、価値観、思想などの違いで、お互いを理解し合うことは、とても難しいことです。その頃は子供時代しか生きていないから、大人のことは分かりませんでしたが、歳を重ねれば、自ずと自分の年代別カテゴリーが上がっていき、ジェネレーションギャップを真に我が事として受け止められるようになって参りました。よく聞くフレーズ、「最近の若いものは…」という嘆きが、数千年前の古代エジプトの遺跡からも発見されたというのは有名な話ですが、誰しも、自分が生きた時代の”最近の若者”だったはずです。


 

私が”最近の若者”世代だった頃は、スマートフォンが普及する前で、携帯電話が、いわゆる「ガラケー」だった時代です。その頃、「平安時代もデコメール」という、携帯電話の広告コピーを筆文字で書かせていただいたことがあります。(デコメールは、当時の携帯電話のメールに、絵文字や装飾、動画などを添付できるNTTドコモのサービスで、テキストのみではない、賑やかな絵文字を送り合うことが流行っていました)先日、偶然にその写真を見つけ、私はなんだか懐かしくなり、その広告の元になったという『うつほ物語』を思い出し読んでみることにしました。



『うつほ物語』は、平安時代中期ごろに成立した、わが国初の長編小説(作者不明)で、平安時代を代表する作家、清少納言も紫式部も、この物語を読んだことが知られています。また、紫式部の『源氏物語』は、この物語から大きな影響を受けたと考えられています。物語の内容は登場人物の不可思議体験などもあり、空想物語のような一面もありますが、平安時代の宮中の人々の暮らしや思いが生き生きと描かれ、古典文学が苦手な私にも面白く読み進めることができました。さて、物語には、度々、手紙や物をやり取りする場面があり、その中に、花びらや葉、蝉の抜け殻や卵など、紙以外のものに歌を書いた様子が描かれています。そこには、一千年も前から、自分の気持ちを相手により良く伝えるための工夫が見られます。(写真:「卵の内に命込めたる雁の子は君が宿にて孵さざるらむ」『うつほ物語』に登場する和歌を実際に卵に書いてみました)



卵に書いた和歌
卵に書いた和歌

和歌が書かれた卵の殻
和歌が書かれた卵の殻


ところで、今では想像もつかないことですが、数十年前の少女雑誌などには「ペンフレンド募集」欄があり、手紙のやり取りをする友達を作ったり、手紙のやり取りだけで恋に落ちる話も珍しくはありませんでした。手紙なので、書いてからすぐに読まれるわけではなく、返事もすぐに受け取ることは出来ません。相手を気遣う言葉や、心境を赤裸々に綴った特別な言葉、「あなたがこの手紙を受け取る頃は…」なんて、タイムラグを配慮した書き出しさえも、優しい人柄が滲み出ているとか、いないとか。まあ、そんなこんなで手紙の内容や、文字の上手さや下手さ、丁寧に書かれているとか、いないとか、もはや人生を左右するほど、大切なやり取りが、手紙を通して行われていたことは、最近の若者には理解できないだろうなあ。


 

スマホ世代の最近の若者は、どんなラブレターを書くのでしょう。今ならSNSが大活躍でしょうか。和歌を作って、物を添えたり、文字を書くのに時間をかけた、かつての世代からすると、何だか味気ないような気もしますが、当の本人たちは、メッセージ送信の一瞬に、最高の緊張感を味わい、ドキドキしながら返信を待っていることでしょう。そして、数十秒後の「既読スルー」(読まれたが返信がない状態)に一喜一憂するかも分かりません。数年間も返事を待ち続けることがあった平安時代の人たちには、想像もできない感情です。


 

ところで、シェークスピアの有名な『ヴェニスの商人』のセリフが由来という「恋は盲目」とは、恋は人を夢中にさせて、理性や常識を失わせるもの、という認識で、そこに異を唱える人は少ないように思います。結ばれぬ恋に自らの命を断つなどは、古今東西、様々な物語の中で頻繁に登場し、『うつほ物語』にも行き過ぎた恋心が描かれ、読んでいて苦しくなります。渦中にいない他人にとっては、勝手に惚れて、期待して、裏切られた、と恨んでいる理不尽さに呆れるところです。しかしながら、人間関係の悩みは、他人が自分の思い通りにいかないことを嘆いていることが多く、また、思い通りにいかないことに共感が集まり、それが読み継がれる文学となる人類の不思議。


さて、もうすぐバレンタインデーということで、恋する若者もそうでない人も、「好き」や「ありがとう」を伝える絶好の機会がやってきます。この気持ちが嬉しいことに、洋の東西も平安時代も令和の今も、ジェネレーションギャップなどはないでしょう。時代も世代も超える普遍の気持ち、相手を思い遣る心を繋いでいきたいところです。



 

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奈良新聞「暮らしの中の書」
奈良新聞「暮らしの中の書」



























(本記事は、2023年2月9日奈良新聞掲載「暮らしの中の書」より)







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